悪いものかな?動物病院行った方がいい?
それでも、愛犬に”できもの”や”しこり”を見つけた時には、なるべく早く動物病院に行くことをオススメします。
(*できもの・しこり=腫瘤・腫瘍とも呼びます。ここでは”できもの”と記載します)
なぜなら悪いものであっても早めに治療すれば完治ができますし、愛犬にもお財布にもやさしいからです。
逆に治療が遅れれば遅れるほど、悪いものなら完治の可能性は低く、愛犬の負担や費用も大きくなってしまします。
できものは無害なもの(良性)と、有害なもの(悪性)がありますが、獣医師であっても見た目では判断できません。
検査するまでは、良性か悪性かの判断はできないのです。
たとえ1mmの大きさであっても悪性のできものもありますからね。
悪性の場合は様子を見ていると、転移して手遅れになることもあります。
ネット上には、できものについてたくさんの情報がありますが、間違っている情報も多いんですよ。
獣医歴14年、日本獣医がん学会員のゆべしが、できものに関する情報を詰め込みました。
それでは、詳しく説明していきます。
犬のできものについて
愛犬にできものができた場合、大きさや色である程度の一般的な判断はできます。
しかし、見た目での判断はあくまで目安としてください。
繰り返しになりますが、検査するまでは良性か悪性かの判断はできません。
【犬のできもの】普段から体をよく触る
できものがあることを知らないと対応もできません。
普段から遊びながら体をよく触りましょう。僕もうちの子を触りまくってます。
体を触られるのをイヤがる子の場合、しつけをして触らせてくれるようにしておきましょう。
自宅で触れない子はできものの発見が遅れたり、目薬や塗り薬もつけられないなど、デメリットがすごく大きいので。
体の表面は分かりやすいですが、口や耳の中、内股、おしりなどは見つけにくいので、まんべんなく見て触ってくださいね。
しこりがあれば、軽くつまんでみましょう。
コリコリ、またはブヨブヨとしたものが触れると、それはできものの可能性が高いです。
【犬のできもの】年齢での判断
一般的に、若い子よりも老齢の子の方ができものはできやすく悪性が多い傾向があります。
ですが、若いからといって悪性のできものができない、というわけではありません。
僕が悪性のできものを発見した最年少の子は2歳でした。
あくまで傾向、ということですね。
【犬のできもの】犬種での判断
小型犬よりも、大型犬の方ができものは悪性であることが多いです。
これもあくまで傾向というだけのお話で、絶対にそうではありません。
余談として、ポメラニアンは腫瘍にならない、という話があります。
(下で説明する乳腺腫瘍にはなります)
これは日本獣医がん学会の講師のお話でしたので、論文データは見たことがないですが、僕がこれまでお話した獣医師は誰1人見たことがありませんでした。
そんなことないよ!という経験をお持ちの方いましたら教えてください。
【犬のできもの】色での判断
よくネットの情報で、「白ければ良性、黒ければ悪性」などとありますが、声を大にして言いたい。
できものの色で判断なんか絶対できないです。
例えば、悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)という悪性のできものは、その名の通り黒いのが普通です。
でもね、白い悪性黒色腫だってあるんですよ?
白いカラスがいるのと同じですよね。
色だけで判断するのはけっこう危険です。
【犬のできもの】硬さでの判断
硬さについては、判断の基準にはなりません。
柔らかくても硬くても、良性・悪性どちらもあり得ます。
【犬のできもの】動く・動かないの判断
つまんで動かしてみると、できものが動くか動かないか分かります。
一般的には、動かない(できものの底がくっついてる)方が、動く(底がくっついてない)ものよりも悪性の傾向にあります。
たとえ良性のものであっても手術で取るのが大変になります。
ですがこれも傾向というだけの(以下略
【犬のできもの】大きくなるかどうかでの判断
判断の基準にはなりません。
大きくなる=悪性といったイメージがありますが、良性でも成長が速いものもあります。
悪性の場合は体の中に浸食していく、転移をする傾向があるので、見た目は大きくならなくても体内に侵入している可能性もあります。
大きくならないから大丈夫、ということはありません。
犬のできものの種類
犬のできものにはどんな種類があるのかを挙げていきます。
犬の体の表面で触ることができる代表的なものを挙げていますので、全種類のほんの一部です。
犬のできものの種類を判断するのは獣医や検査センターの仕事なので、飼い主さんは読み飛ばしていただいても大丈夫です。
乳腺腫瘍と肥満細胞腫という項目だけ見てもらえるとありがたいですが、「こんなに種類があるんだ」と思ってもらえたら幸いです。
逆に、もっと知りたい!という方は「IDEXX検査センター」のHPで詳しく説明されていますので、こちらへどうぞ。
IDEXXは日本全国の獣医ができものの判定を依頼している検査センターで、僕が知る限り1番信頼できる会社です。
【犬のできもの】できものではないもの
犬のできもののように見えて、実はできものではないものもあります。
炎症
炎症は皮膚にできる赤い腫れで、熱を持つこともあります。
主に皮膚炎やケガ、細菌感染などで起こります。
これはこれで治した方がいいのですが、今回のできものとは別のものです。
炎症が長引くとしこりになり、できもののように見えることがあります。
そこまで行くと見分けるのが難しくなるので、早めに治療しましょう。
虫さされ(蚊・ダニなど)
蚊に刺されたり、外に遊びに出てダニに刺された場合に起こります。
特にダニに刺されるとしこりになりやすく、できものとの見分けが難しくなるので注意です。
別の問題として、ダニに刺されると重症熱性血小板減少症候群(SFTS)という命に関わる病気にかかることもあります。
ヒトもかかる病気です。
犬は必ずダニ予防、ヒトは長そでの着用など気をつけてくださいね。
毛玉
ときどき、毛玉をできものと間違えて来院される飼い主さんがいます。
毛玉でしたねハッハッハで平和に診察が終了しますが、手間とお金と愛犬にストレスがかかるので、よく見ておきましょう。
表皮嚢胞(ひょうひのうほう)
毛穴がなにかの原因で詰まり袋のようになったものです。
中に垢がたまって大きくなり、できもののように見えます。
通常大きさは変わらないですが、どんどん膨らんで破裂、出血するものもあり、こうなってしまうと手術で取るしかないので、ある意味厄介です。
【犬のできもの】良性のできもの
ここからは、犬の体に害のないできもの(良性)を挙げていきます。
良性とはいうものの、大きくなると犬の動きを邪魔したり、出血したりすることもあります。
良性でも腫瘍ですから、膿んだり出血したりすると薬では治せません。
(できものに通常の薬はとても効きにくいです)
この場合は手術が必要になりますので、注意が必要です。
脂肪腫(しぼうしゅ)
脂肪が無秩序に増えてしまったできもので、触るとブヨブヨした感触です。
7歳以上の高齢犬でたびたび見つかり、基本的に無害です。
特に治療は必要ありません。
触った感触で「脂肪腫だな」と判断がつきますが、よく似た「脂肪肉腫」という悪性のできものがいるので、検査はしておいた方が良いですよ。
乳頭腫(にゅうとうしゅ)=イボ
パピローマウイルスという、ウイルス感染によるできものです。
ヒトでもおなじみの「イボ」と呼ばれるものですね。
高齢の子にできていることが多くほぼ無害で、悪性化することがあると言われていますが、ごくまれです。
イボコロリでとれるとの噂ですが、僕は試したことはありません。
【犬のできもの】良性または悪性のできもの
犬のできものの中には、良いとも悪いともいえないという、微妙なものが存在します。
乳腺腫瘍(にゅうせんしゅよう)
良性・悪性どちらの可能性もある代表が犬の乳腺腫瘍です。
良性:悪性の可能性が50%:50%となっていて、まさに半々です。
避妊手術をしていない子、または発情が来てから避妊手術をした子がかかります。
(前述のポメラニアンもかかる可能性があります)
逆に、発情前に避妊手術をした子はほぼかかりません。ですので避妊手術はお早めに。
7歳以上の高齢のメスで多く、お腹にできものができます。(ごくまれにオスもかかる)
悪性の場合は肺やリンパ節、肝臓などの内部臓器に転移し、抗がん剤が非常に効きにくいので、発見した場合はできるだけ早い手術が望ましいです。
肺に転移した場合、すごく苦しい思いをしますので、避妊による予防や見つけてから早期の手術を強くオススメします。
(肺転移した子は見ているのも辛いです)
皮脂腺腫(ひしせんしゅ)
皮脂腺という、皮膚の潤いを守る役割をする部分にできるできものです。
3種類に分けられ、そのうち皮脂腺上皮腫(ひしせんじょうひしゅ)というできものがやや悪性となります。
頭にできることが多く、7歳以上の高齢の子に見られます。
【犬のできもの】悪性のできもの
ここからが悪性の犬のできものです。
悪性のできものも、進行の早い、遅いなどによって”悪性度”が違います。
悪性と診断されても諦めないでしっかりと治療すれば、完治が望めるものもありますからね。
肥満細胞腫(ひまんさいぼうしゅ)
非常に厄介なできものです。
なぜかというと、どんな見た目でも肥満細胞腫の可能性があるからです。
イボにみえたり、脂肪の塊にみえたり、はては単なる炎症のように見えたり。
カメレオンのように、なんにでも化けます。
がん学会でも、「肥満細胞腫がいる限り、どんなできものでも疑って検査すべき」と教えられました。
また、肥満細胞腫は中に炎症を引き起こすヒスタミンという物質を蓄えていて、刺激によってそのヒスタミンを体中にバラまきます。
その結果、体に広く炎症が広がる「ダリエ徴候」という現象を引き起こします。
ですので、肥満細胞腫という診断が下ったらむやみに触ってはいけません。
悪性度が高いものでは転移もしますし、完治が難しい場合もあります。
できものの中でもダントツの嫌われ者ですが、発生が多いです。
憎まれっ子なんとやらかもしれません。
扁平上皮癌
皮膚にできるガンの一種で、日光を浴びることにより発生しやすいと言われています。
皮膚の色がうすい部分にできやすく、イボのようになったり、あまり形を取らなかったりします。
リンパ腫(リンパ肉腫)
体の中にある、リンパ球という細胞がガン化することで起こります。
いろいろなタイプがありますが、ほとんどがリンパ節が腫れるタイプですね。
低悪性度・高悪性度の2種類があり、両方とも抗がん剤が効果的ですが、高悪性度の方が治りが悪く進行も早いです。
余談ですが、猫の場合の飼い主さんが喫煙者で、猫が煙を体に浴びているとリンパ腫の発生率が2.4倍高くなるデータがあります。
悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)
ほくろなどで知られるメラニンを作る細胞がガン化したものです。
多くは口の中や、唇の境目あたりにできることが多いですね。
口の中にできると非常に手術しづらく、放射線治療などが必要になることも。
できものの色は、黒、緑など濃い色をしていますが、白いものもあります。
メラニンなのに・・・
【犬のできもの】自宅でできるケア
良性・悪性どちらであっても、自宅のケアで治すことは残念ながらできません。
自宅でできるケアは以下のとおりです。
- できものを噛む、舐めるようなら防ぐ(エリザベスカラーなど)
- 炎症があれば軟膏とガーゼで巻く
ビタミンEや免疫を高めると良いなどの情報がありますが、劇的に良くなった!できものが消えた!という経験は残念ながらないです。
皮膚の保湿スプレーが役立つなどの情報が大手サイトに上がっていましたが、はっきり言って意味はありません。
むしろ炎症を起こしているできものの場合は、悪化する可能性もあります。
一時期口コミで話題になったアガリクス(ベータグルカン)も、科学的な根拠には乏しいです。
以上のことから、自宅でできることは根本的な治療ではなく、噛むのを防ぐ、炎症を抑えるといった2次的な部分になります。
【犬のできもの】検査の方法は?メリット・デメリット
動物病院での検査について解説します。
検査をする理由は以下の情報を集めるためです
- できものが何なのか
- 犬の健康に悪影響が出るものなのか
- 悪性ならどんな治療をしていくか
- 手術をするならどこまで切ればいいか
情報を集め、飼い主さんと相談しながら適切な治療をしていくのです。
費用は動物病院によって違いますので、目安にしてくださいね。
【犬のできものの検査①】針生検(はりせいけん)
細い針でできものを刺し、取れた細胞を顕微鏡で見る方法です。
取れるのは小さな細胞なので、検査の精度は低いですが、良性か悪性かの判断がつけられることがあります。
特徴的なできものの場合は診断が確定できることも。
動物病院内で検査でき、費用も1000円~2000円前後なので行いやすいですね。
メリット:安い、お手軽、結果が早い
デメリット:検査の精度は低い
【犬のできものの検査②】組織生検(そしきせいけん)
太めの針や、メスでできものの一部を切り取る方法です。
麻酔をかけることもありますので、行うかは主治医とよく相談しましょう。
取れた組織は、前述したIDEXXなどの検査センターで診断してもらい、ほぼ診断が確定します。ごくごくまれに、分からないこともありますが。
さらに、手術ならどこまで切ればいいかなどの情報が分かることもあります。
針生検よりも診断の精度は高く、費用は2万円~3万円前後とややお高め。
検査センターからの結果が出るまで1週間ほどかかります。
メリット:診断が確実に出る
デメリット:費用高め、麻酔をかけることもある、時間がかかる、傷の治療が必要
【犬のできものの検査③】診断的な外科手術
手術は検査ではないと思われる方もいると思いますが、検査のために手術をすることがあります。
針生検で悪性が疑われた場合などに行うことが多いですね。
まず手術でできものを取ってしまい、検査センターに出します。
できものがすべて取りきれている場合は治療は終了です。
取りきれていない場合、再手術や抗がん剤、放射線など次の治療に移ります。
組織生検をせずに行うことが多いので、取り切れればラッキー、取り切れないと再度処置が必要な、ややバクチのような検査法です。
実施するかは主治医とよく相談しましょう。
メリット:取り切れれば1度の手術で完治
デメリット:取り切れないと継続して治療が必要、麻酔が必要
まとめ:犬のできものを見つけたらまず検査
ここまでの情報をまとめます。
・できものは見た目で判断はできない
・早めに発見し検査すると愛犬も飼い主さんも幸せ
・検査方法はいろいろあるので、主治医とよく相談
この記事を読んでいただいた方の中には、なにか画期的な解決法があると思って読まれた方もいるかもしれません。
できものについては地道な検査と治療しかなく、それが一番の近道です。すいません。
仮に悪性でも小さいうちに発見したなら、レーザーや凍結療法など、麻酔もいらない軽い治療で完治も望めますからね。
愛犬をよく見られている飼い主さんほど、軽い治療で済む傾向が強いですし、「調べてもらってよかった」という感想をいただきます。
飼い主さんなら誰だって「手遅れ」より「完治」の方が好きですよね。
今はそれができる時代です。
できものができたら、ぜひ早めに検査を受けてみてくださいね。