犬を飼う、とくに初めて犬を飼う方には多い悩みかもしれませんね。
本記事では、迷えるあなたの悩みを獣医師のゆべしが解決します。
✔目次
犬を飼うということ
僕は獣医としてたくさんの飼い主さんを見てきました。
愛犬と本当に幸せそうに暮らす飼い主さんもいれば、残念ながら飼い犬にそれほど愛情がないように見える人もいます。
この差がついてしまう理由は、飼う前に「犬を飼う」ことで「どんな生活が待っているのか」を想像したかどうかだと僕は思っています。
犬を飼う=子供を1人養うこと
と言われるように、犬にはたくさんのお金と時間がかかりますし、しつけなどは根気も必要になります。
そのことを知らずになんとなく飼い始めてしまうと、お金や時間などが負担になります。
「こんなはずじゃなかった」という思いが生まれ、犬への愛情が薄れてしまうかもしれません。
犬は、あなたのおうちに来てくれた大切な家族です。
不満を抱えながら生活するよりも、一緒に楽しく暮らしていきたいですよね。
そこで、犬を飼う前の7つのチェックポイントを用意しました。
1. 十分なお金がある
2. お世話をする時間がある
3. 犬を飼える家に住んでいる
4. 犬を飼う体力がある
5. 老犬になってもお世話ができる
6. 家族全員が犬を飼うことに賛成している
7. 自分になにかあっても、お世話をしてくれる人がいる
ちなみに、この7つのポイントは必要な条件であって完璧ではありません。
言いかえると、このポイントを満たしても犬と幸せになれるかは分からないよってことです。
犬を飼うために必要な本質とは「犬の立場になって考えられるか」ということです。
この根本的な本質を満たした上で、7つのポイントを満たしているかチェックしてくださいね。
それでは、詳しく説明していきます。
1. 十分なお金があること
犬に限らず、動物を飼えば必ずお金がかかります。
たとえば犬をペットショップから飼うとすると、生活用品や最初のワクチンなども含めて20万〜30万円ほどのお金がかりますよね。
そして、飼い主さんにかかる費用はこの金額だけで終わりではありません。
むしろ、飼ってからの方がお金はかかります。
毎年のワクチンやフィラリア予防などで年に数万円の費用は必ず出ます。
トリミング代や、もし重い病気になれば定期的な通院費や入院代もかかります。
病気によっては1年で数十万という単位のお金がかかるかもしれません。
最近は犬の治療も本当に人と同じレベルに近づいてきています。
それこそガンなら放射線治療や抗ガン剤などの治療も行えますが、その費用は高額なものになるでしょう。
どこまでお金をかけるかは飼い主さんの経済力と愛情によるので、必ず高額な治療を受けなければいけないわけではありませんが、そういった可能性があることを知っておいてください。
2. お世話をする時間がある
これは、言い方を変えれば「あなたの時間を犬に使えるか」ということです。
自分のことだけでも手一杯という人は、犬を飼うのは難しいでしょう。
お散歩やトリミングに行くなど、犬を飼う前よりも忙しくなるのは間違いありません。
一人暮らしで仕事をしている人や、共働きの夫婦などの場合、今までより早起きしなければいけないこともあります。
そして、おそらくなにより時間を取られるのが動物病院への通院です(獣医が言うのもなんですが)。
たとえば、あなたは最近仕事が忙しくお休みが取れず、やっとゆっくりできる休日を迎えたとしましょう。
もしくは家族で遊びに行く予定だった休日でもかまいません。
そんな楽しみにしていた日に、飼い犬がお腹をこわしてご飯も食べなくなってしまいました。 あなたならどうしますか?
おそらく僕も、「えぇぇー…このタイミングで?」と思ってしまうでしょう。
そんな状況でも、楽しみたい、休みたい気持ちをぐっとこらえて愛犬を動物病院に連れていってあげられますか?
時間やお金があることと、飼い犬にそれを使うことはまったく別のお話です。
時間があっても、飼い犬に必要なケアをしてあげられなくては意味がないですからね。
うちの子になら自分の時間を使うのも惜しくはないと思える人は、きっと飼い犬と幸せに暮らせると思います。
3. 犬を飼える家に住んでいる
これはどんな種類の犬を飼うのかで話が変わってきますが、犬を飼えない環境に住んでいるのなら無理に飼うのはやめましょう。
アパートやマンションの場合、ペット不可の物件も多いはずです。
にもかかわらず無断で犬を飼ってしまうと、ご近所とのトラブルになったり、場合によっては罰金や立ち退きを要求される可能性もあります。
いずれの場合も、肩身を狭くして暮らすことになるでしょう。
最悪の場合犬を手放すことにもなりかねません。
それは一番してほしくない選択です。
ペット可の物件に住んでいる、持ち家があるなど、必ず犬を飼える環境で飼ってくださいね。
4. 犬を飼う体力がある
自分の体力と犬の大きさが釣りあわない場合は、犬を飼うことが辛くなるケースがあります。
特に中〜大型犬でしつけがされていなければ、散歩中は引きずられながら散歩することになるかもしれません。
飛びつかれた拍子に倒れてケガをすることもあります。
実際に僕の祖父は飛びつかれて転倒し、腕を骨折しました。
体力のない方なら小型犬やおとなしい犬種を選ぶなど、ご自身に無理がないような選択をしましょう。
それでもやっぱり大きな犬が飼いたい!という場合には、きちんとしつけをする、ドッグランに連れて行くなどの対策をしましょう。
普段から仕事などで疲れ切っていて、余裕がなければ犬を飼うタイミングではありません。
5. 老犬になってもお世話ができる
犬の寿命は、およそ小型犬で15年、大型犬で10~13年です。
人が時間とともに年を取るように、あまり見た目に変化のない犬も確実に体は弱っていきます。
老犬になってから起こる症状としては
・目が見えなくなって物にぶつかる
・後ろ足が弱って立てなくなる、寝たきりになってしまう
・認知症になり、夜鳴きやおもらし、徘徊をする
・病気になり通院の時間や治療費がかかる
などなど、飼い犬が若い頃にはなかった負担が飼い主さんにかかる可能性があります。
そして、老犬になった時には飼い主さんも高齢という落とし穴もあります。
犬を飼う時には、10年、15年後のご自分の年齢と体力も想像しておきましょう。
前の項目(犬を飼う体力がある)とも関係しますが、老老介護になってしまうとお互いに生活が辛くなります。
飼い犬はずっと元気とは限らないので、そうなった時には健康な飼い主さんが支えてあげられるようにしてください。
ここからは余談ですが、年を取ってからの犬の雰囲気が好きという飼い主さんもたくさんいます(僕もその一人です)。
なんというか、若いころの元気いっぱいな感じとは違って、おっとりしていてすごく落ち着くんですよね。
年をとっても大好きな愛犬と、穏やかな時間をすごせたら、とても幸せだと思いませんか?
6.家族全員が犬を飼うことに賛成している
犬を飼うときに、もしご家族の誰かが反対したなら飼うのは一度踏みとどまりましょう。
なぜなら、犬を飼うことによって家族関係に悪影響が出る可能性があるからです。
反対を押し切って飼ったとしても、反対した人には不満が残るでしょう。
もちろん飼ってしまってからその子を好きになる可能性もありますが、そうならなかった時は大変です。
不満は日々つのっていきますし、もしかすると犬にイジワルをするかもしれません。
そんなことになっては、楽しい犬との生活が望めないどころか、家族の関係にヒビが入りかねません。
反対している人がいるなら、まずはとことん話し合いましょう。
そして、同じように犬にアレルギーを持つ人がいないかも確認しましょう。
これは実際に犬を抱いたりしてクシャミや鼻水が出たり、皮膚がかゆくなったりしないかをみればOKです。
お店によってはお試しで「1週間ご自宅で一緒に生活」というサービスをしているところもありますが、アレルギーがあるかを見るだけでしたら、これはあまりオススメしません。
1週間も一緒にいたら、アレルギーがあったとしても、愛着がわいて手放したくなくなるからです。
またちょっと話がそれてしまいましたが、家族のためにも犬のためにも、飼い始めた時には全員で喜んで迎えられるようにしてあげてくださいね。
7.自分になにかあっても、次の飼い主さんがいる
これが、今までお話してきたポイントの中で一番大切な点だと思います。
僕も今シーズーを飼っていますが、この子は飼い主さんのやむを得ない事情により12歳で我が家へやってきました。
名前は以前のまま、「太郎」です。
今ではすっかり家族の一員となり、子供たちから愛されすぎて逆に困っている太郎ですが、我が家へ来るまでは引き取る人もなく、辛い思いもしてきたようです。
以前の飼い主さんは僕が診察をさせてもらっていた患者さんでした。
とても太郎を大切にされている飼い主さんで、薬の効きにくいアレルギー皮膚炎にもかかわらず、献身的に通院されていました。
個人的なお話になってしまうので、飼えなくなってしまった理由は書きません。
その後紆余曲折を経て、飼い主さんのご希望もあり僕の家へやってきました。
もし、あなたが病気や事故で亡くなってしまったら、見知らぬ誰かに愛犬を託したいですか?
誰かが飼ってくれればまだ良いほうかもしれません。
愛護センターに収容されたり、次の飼い主もいないまま一生を終えるかもしれません。
誰だって、次の飼い主さんは心から信頼できる人にお願いしたいと思いますよね。
犬は自分で生き方を決めることはできず、飼い主さんも選べません。
だからこそ、自分になにかあった時のことを考えて、信頼できる方にお願いしておきましょう。
これは飼い犬のためだけではなく、「最後までお世話ができなかった」という罪悪感からあなたの心を守るためでもあります。
犬を飼うのにオススメするタイミング
人生いろいろ、いい時もあれば悪い時もあります。
そして、犬を飼うのにもタイミングは重要です。
オススメするタイミングは、「人生に大きな変動がないとき」です。
たとえば、家族がいるなら子供に手がかからなくなってきた時や、子供が就職してお金がかからなくなった時。
仕事をリタイアし、第二の人生を楽しもうという時なら、お金や時間に余裕があり、十分なケアをしてあげられますよね。
逆にあまりオススメしないのが、「これから大きな変動がある時」です。
大学への進学、就職、結婚、出産、転職・・・などなど。
人生にはイベントが多くありますが、特に経済的に大きく変化がある時や、住居が変わる予定がある場合は要注意です。
犬にお金をかけられなくなったり、引越し先がどうしてもペットを飼えない家になったりする可能性があるからです。
犬を飼うための、たった一つの本質
冒頭で、この本質とは「犬の立場に立って考えられるか」と書きました。
「いやいや、犬の考えなんか分かんないじゃん」という人もいるでしょう。
その通りだと思います。獣医である僕も分かりません。
確実に分かるのはおやつの前でしっぽ振ってる時ぐらいのもんです。
分からないなりに、僕ら人間の考えの中で「もし自分が犬だったら」と想像してみます。
寒い夜なら、エアコン入れてほしいな、あったかいベッドがほしいなと思うかもしれません。
足が痛いときは、早く治してほしいと思っているかもしれません。
飼い主さんが長く留守にすれば、早く帰ってきて散歩してくれないかなと願っているかもしれません。
すべては想像でしかありません。必ず「かもしれない」が最後につきます。
犬を人のように扱いすぎるのも、逆に犬にとって良くないこともあります。
それでも、「犬だから大丈夫」と放ってしまう人と、「大丈夫かな?」と心配してくれる人、あなたが犬ならどちらに飼い主さんになってもらいたいですか?
まとめ
ここまでの内容をまとめると、次のようになります。
・犬の立場になって、思いやりをもって接してあげられるか。
・必要な時、飼い犬にお金や時間を使えるか。
・犬を飼うことや、老後のお世話の大変さを知った上で、全員が賛成して迎えられるか
・あなたになにかあった時、信頼している人に飼い犬を託せるか
もし「大変だなぁ。そんなに面倒なの?」と思ったなら、飼わないという決断も愛情のひとつです。
何度も言いますが、飼ってしまってから大変さに気付いたら、人も犬もお互いに大変になります。
現実を知ったうえで、それでも飼いたいと思うならぜひ犬との生活を楽しんでほしいです。
犬のいる生活って、他では得られない幸せがあるんですよ。
家に帰ったら玄関で出迎えてくれたり、おやつを真剣な目で見つめながらシッポを振っていたりする姿を見るだけで自然と笑顔になれます。
イヤなことがあった日でも、抱っこして頭をなでてあげると心が軽くなります。
犬は人に精神的なやすらぎを与えてくれますし、たとえ何もしていなくても、その存在が飼い主さんを支えてくれています。
だから、もしあなたが落ち込んだり怒ったりしている時でも、ふっと力を抜いて愛犬の頭を優しくなでてあげてください。
休みたい日に犬が体調を崩しても、ぐっとこらえて動物病院に行ってあげてください。
高齢になって足腰が弱くなったら、飼い主さんが支えてあげてください。
犬は単なるペットではなく、伴侶動物(コンパニオン・アニマル)と呼ばれています。
彼らには人と同じように喜怒哀楽の感情があり、信頼関係を築くことができれば、まさしく人生の伴侶としてあなたの人生を豊かにしてくれます。
ここまでの記事を読み、それでも犬を飼いたいと思ったなら、あなたの家族になる犬はとても幸せだと思います。
そして、あなたの生活もこれまでにはない楽しさが生まれることでしょう。